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ついに実現した念願の有明海苔の取材
『成清海苔店の有明海苔』。皆様、もうお召し上がりになられたでしょうか。自然の恵み村で紹介して以来、好評を博し、すっかり定番商品となっております。実際に、私も『味付けおかず海苔』のファンで、ごはんには欠かせない一品となっています。

その『成清海苔店の有明海苔』の取材の話が出たのが前年の秋。しかし、収穫の最盛期と重なり、取材に行けたのは、年が明けてしばらくたった平成17年1月29・30日でした。

今まで、製造者の成清忠さんにはお会いしたことがなかったので、今回はぜひ成清さんにお会いし、成清さんに海苔に対する想いを語っていただこうと思っていました。


 
 

大阪から福岡空港へ飛行機で1時間とちょっと。目指す柳川へは、この後さらに西鉄の特急にゆられて2時間。29日は翌日の取材でどのような話をするかに胸を膨らませながら、とんこつラーメンをすすって床に就きました。

翌30日の朝9時、待ち合わせていたビジネスホテルで成清忠さんに出会いました。成清さんは、成清海苔店の2代目。もともと父親が海苔店を営んでいましたが、彼自身は福岡市内で旅行代理店に勤めるサラリーマンで、海苔店の後を継ぐことになるとは当時は思っていなかったといいます。

そんな、成清さんが成清海苔店を継ぐきっかけとなったのが、消費者団体との出会い。海苔摘みツアーで一緒に海に行ったときに、環境を保護する活動をしている彼らの熱意を感じ、海苔づくり、そして有明海の環境に責任を持つことの大切な意味に気づかされたと言います。まさに、トンカチで殴られたような感覚とのこと。

はじめてはみたものの、最初は有機農業の意味も分からず、試行錯誤の連続。しかし、こだわりがある人たちと付き合うにつれて、自分も食べ物の安全に関すること、環境問題のことを勉強し、出した結論が、『秋芽の一番海苔のみ使用した海苔』、『酸処理をしないこと』、そして、『味検査の導入』でした。

 
 
 
 
 

海苔の収穫は、例年11月中旬からの始まり翌年3月まで行われますが、11月の中旬から下旬に摘み取られた海苔を『秋摘み海苔』といいます。成清海苔店では、その中でもシーズンの初めに収穫される『一番摘み』の秋芽のみ1年分を買い付けます。

秋摘み海苔は、それ以降の海苔に比べ若干赤い色をしているため、外観を重視する現在の取引では、余り評価されていません。しかし、成清さんは、「秋芽は、肉付きが良く、それでいて柔らかく口溶けも良い。口の中でとろける食感がある」と言います。

リンゴ酸、クエン酸などの酸を用いて、海苔を殺菌する過程のことを『酸処理』といいます。酸処理を行った海苔は、青海苔などの付着を抑え、色も黒々と見栄えがよくなるので、高値で入札されます。

この酸処理は、海苔の養殖では、ごく普通にみられる過程ですが、使い終わった酸を海に流すと、酸を中和するために多量に酸素を消耗し、海の酸素濃度が低くなります。酸素濃度が少なくなると、酸欠により魚介類が死ぬなどの影響が出てきます。実際、地元の料理店に行っても、出てきた貝は地元のものでないということを言われました。そして、貝が少なくなると、プランクトンを食べるものがいなくなり、プランクトンが大繁殖し、海苔の成育に必要な栄養が少なくなり、色落ちが起こります。

 
 
 
 

成清海苔店では、酸処理の海の環境への影響を考え、酸処理をしていない秋一番摘みの海苔のみを買い付けます。「秋芽は水温が高いから病気が出やすいのですが、酸処理は水温が高いとあまり効果がないので、秋芽は日光を浴びることによって、殺菌をしているのです。日光を浴びると海苔は赤っぽくなり、入札での値が下がってしましますが、日光を浴びることによって、旨みの元となるアミノ酸の量は多くなり、美味しい海苔になる」と言います。

また、海苔は色やツヤなどの外観が評価の基準で、少々小さな穴が空いていたり、青海苔が付着していたりすると、格付けが下がってしまいます。

しかし、成清さんが取引をしている皿垣漁協は、7〜8年前に「最近の海苔は、海苔本来の味じゃない。本来の海苔の味を取り戻したい」との思いから、実際に海苔を一枚一枚焼いて食べ、うまかったもの上位にランクする『味検査』を行うようになりました。

「少々色が悪くても、うまかったら1ランク上げます。酸処理を行わない海苔には、海苔本来の味がある」と言います。皿垣漁協は、先駆けて味検査を導入するなど、海苔の『うまさ』にこだわった海苔づくりを行っています。

 
 
 
 

午前11時、いよいよ海苔の取材。案内していただいたのは、皿垣漁協の組合長・浦光一さん。有明海に臨む河口には、たくさんの海苔養殖のための漁船が停泊していました。

桟橋と漁船との間に落ちないように、へっぴり腰で漁船に乗り込むと、船はゆっくりと進み始めました。風が心地よい。

河口から海原へ向かうにつれ、船は次第に速度を速めていきます。船の前方に座っていた成清さんに手招きされ、成清さんの隣に座って海へ。

スピードを上げた船から、遠くの海に無数の串のようなものが刺さっているのが分かりました。きらきら光る水面と無数の串。

その串のようなものこそが、海苔の養殖に使う支柱でした。沖へ出るに従い、次第に支柱が間近に迫ってきました。

その数なんと120万本。収穫時期には、ここに漁船が集い、それこそ寝る間もないくらい徹夜の状態で収穫作業を行います。

 
 
 
 

漁船は、いつしかスピードを緩めて、支柱と支柱の間をゆっくりと走り、やがて、支柱の側に留まりました。さらに、2m四方ほどのちいさな船に乗り換えて支柱が手に届くところまで行きました。

支柱には網が張っており、その網にゆらゆらと海苔が生えていました。有明海は、干満の差が5〜7mもあるため、これを活かした「支柱方式」という養殖方法を行っています。

これは、ポールを支柱にして、そこに網を張り、そこに海苔の種をつけて育てる方法で、潮の満引きにより海苔が日に当たったり、海に沈んだりします。

海苔が日に当たることで、旨み成分を蓄え、栄養価も増すのです。

浦さんが道具で網を引っ張り海苔を手繰り寄せてくれました。「これが海苔なのか」。ゆらゆらとした海藻のようだが、一口食べてみるとなるほど、潮の味とともに、これが海苔になるのだと納得しました。

しばらくの間時間を忘れて、きらきらと光る日光を浴びて、波間を小船と共に揺られていました。


 
 
 
 

収穫された海苔は、生産者の設備で加工され海苔の原形となり、これを入札します。入札された海苔は、成清さんのような加工業者に買い付けられ、そこで商品化されます。成清海苔店では、醤油などの味付けの原材料にも気を使い、全て無添加の国産原料のみを使用しています。ここも、成清海苔店の見逃せない大切なところです。

成清さんに、今後どんな海苔をつくりたいかを聞いてみたところ、「一言で言えば、うまいと思える海苔」だという。「見てくれが良くなくてもうまいと言えるものを生産者につくってほしい。皿垣漁協のような団体が増えて、海苔づくりの原点に戻って『質』で勝負したい。生産者の意識を変えるのは大変ですが、買う側にも自分たちの海苔づくりのことを分かっていただきたい」と言います。

有明海は日本有数の海苔の産地として有名ですが、生産者の数は現在では最盛期の約半分。機械化には莫大な資金が必要なのですが、生産者個人では荷が重過ぎるのです。私が今まで見てきた、多くの生産現場と同じ問題を抱えていました。また、諫早湾の干拓など、環境問題にも直面しています。美味しい海苔を生産できる環境自体が危機に瀕しているのです。

そんな中でも、彼らの表情は明るく、成清さんに浦さん、二人の海苔にかける想い、それを育む海に対する感謝の気持ちと海を守っていこうとする想いが、彼らからひしひしと伝わってきました。