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千葉県は、下総の国に古代蓮根の郷があります。8月の初め、連日35度を越す猛暑の熱風が降り注ぐなか、有坂照章さんは日に焼けた顔をほころばせて、出迎えてくれた。

見渡すかぎりに続く田んぼのなかにれんこん田があった。暑い盛りの時間帯であるというのに、ここに立つと吹く風の心地いいこと。蓮の葉は、大きいものだと人の背丈ほどあって、その葉が予想以上に大きい。

蓮の葉の中をのぞくと、どの葉にも露が丸くなって動いている。昔の人は改まった文字を書くときなど、この蓮の葉の朝一番の露で墨をすったという。

有坂さんは、茎を1本切って、葉にくるむように水を入れ、飲ませてくれた。蓮は地下の根から、茎、そして葉へと続く空洞がある。

切断した茎の断面もれんこんを輪切りにしたような形になっていた。茎を吸うように飲むのだが、思った以上に水が口に入ってきた。「これに酒を入れて呑むと旨いんだぁ」と酒豪の有坂さんは言う。

 
 
 
 
   

有坂さんのれんこん田では、土作りだけで10年以上の時間をかけたという。「土がれんこんづくりには、向いてなかった。砂地でね、強酸性と塩分。だから、全くれんこんには駄目だった」

普通の人だったら、ここであきらめてしまうだろう。

しかし、有坂さんは違った。「これは土作りからやらんと!」と思ったという。「いや、土地が悪かったからこそ良かったんです。元々土地が恵まれていたら、ここまでにはなっていなかったでしょう。人生、壁にぶつかってからが本番。本腰が入るというものです」

肥料には、くず大豆、米ぬか、完熟発酵肥料、ミネラル、そして、光合成細菌。この光合成細菌によって色が白くなる。

「年々土が良くなり、やがて古代蓮根の味は、そのまま美味しく、ぷっくりと丸くでき、農作業も楽になるまでの土地ができあがりました。」

 
 
 
 
   

「作物というものは生産者に似るんですよ。家庭でもそうですよね。きちんとした食事を子供に作り、食べさせ、愛情たっぷりかけて、ときには厳しくして育てた子供と、ほったらかしでインスタント食品ばかり与えてる子供では、違って当然でしょう。それと同じですよ。農家にも、「物」を作っても「本物」を作れる農家が少ない。50人、100人が同じ品種を作っても、同じ品質はないんです。」

さらに、「数え切れないほど視察もしました。良いところを観ていると悪いところを見抜く力がつくものです。井の中の蛙ではだめですよ。そして、何より大切なのは「意欲」です。人生は「意欲」です。壁は破られるためにあって、壁を破れば何かを得るんです。私のれんこんは、「意欲」が認められて、農林水産大臣賞を得たんですから。」

「私はいつも夢を持って生きてきました。いくつになっても常に夢は持たなくっちゃ・・・」

「もうすぐ息子の代になるでしょう。引くときは清くサッと身を引く。手放すと何かが出てくるはずですよ。」

れんこん田に涼しい風が吹いた。遠くでセミが鳴いていた。